30 for 30 サーティ・フォー・サーティ
放送局: ESPN
プレミア放送日: 10/6/2009 (Tue) 20:00-21:00
製作: ESPN
内容: スポーツ専門チャンネルESPNが、放送開始30周年を記念して放送するスポーツ・ドキュメンタリー30本。
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ディズニー傘下のスポーツ専門チャンネルESPNは、今年、放送を開始して30年目という節目を迎えた。そもそもチャンネル名はEntertainment and Sports Programming Networkを略したものであり、特にスポーツだけを意味するものではないが、現在ではESPNというと誰でもスポーツを即座に連想する。
もっとも、100%スポーツ・オンリーというわけでもない。スポーツをテーマにしているとはいえ、ミニシリーズの「ザ・ブロンクス・イズ・バーニング (The Bronx Is Burning)」を放送したのはここだし、独立記念日の毎年の恒例のホット・ドッグ大食い競争を中継するのもここだ。今では親チャンネルのABCが中継するようになったが、かつては少年少女の英単語綴りコンテストの「スペリング・ビー (Spelling Bee)」もESPNが中継していた。ポーカー中継なんてのもある。
そのESPNが、放送30周年を記念して、特にスポーツ関係者に限らない映像作家30人に、1979年から2009年までの30年で最も印象に残ったスポーツの事件をテーマに、一人1時間ずつのスポーツ・ドキュメンタリーの製作を依頼した。それが「30フォー30」だ。
アメリカはスポーツ大国であるのは確かではあるが、さりとて私はアメリカの国技とも言えるプロ4大スポーツのNFL、NBA、MLB、NHLのどれにも、実はさほど興味はない。どれもプレイオフくらいに入ったら一応スコアに目を通したり、スポーツ・ニューズにも多少は身を入れて見たりはするが、せいぜいそんなもんだ。私が今、頻繁に見ていると言えるスポーツは、PGA、テニス、フィギュア・スケート、F1、Moto GPの250ccクラス、サッカー (MLSではなく世界の) くらいで、それでも週末は時間がいくらあっても足りなかったりする。
それで、たぶんフットボールとベイスボールの話が席巻するだろうなと思える「30フォー30」に、あまり注意を払ってはいなかった。いざそのラインナップが発表になると、案の定とも言えるその手の話ばかりだったのだが、その一方で、その番組を作っている映像作家の人選にかなり驚かされた。
番組第1回として編成されたNHLテーマの「キングス・ランサム (Kings Ransom)」を監督したのは、「キングダム (The Kingdom)」、「ハンコック (Hancock)」のピーター・バーグだ。1988年、カナダのアイス・ホッケー界のスーパースター、ウエイン・グレツキーが、突如エドモントン・オイラーズからロサンジェルス・キングスへの移籍を発表する。そのことがNHLに与えた多大なる影響を回顧するもので、たった一人のスーパースターがスポーツ界に与えた影響の甚大さを考える。それにしてもバーグがNHLか。まったく結びつかない。
第2回の「ザ・バンド・ザット・ウドゥント・ダイ (The Band That Wouldn't Die)」監督はバリー・レヴィンソンで、「ダイナー (Diner)」やTVの「ホミサイド (Homicide)」等、地元ボルティモアを愛し、「ナチュラル (Natural)」でベイスボールを詩情高く描いたレヴィンソンのことだ、当然ここもMLBのボルティモア・オリオールズ・テーマの番組なんだろうと思っていたら、実はレヴィンソンが選んだのは、ボルティモアはボルティモアでも、MLBではなく、1984年にファンを見捨てて文字通りスタジアムから夜逃げしたNFLのコルツのことだった。フットボールのファンでもあったのか。
さらに驚かされたのが、番組第4回のモハメッド・アリとラリー・ホームズをとらえた「モハメッド・アンド・ラリー (Muhammad and Larry)」を監督したアルバート・メイズルスだ。メイズルス、あの、今年HBOが製作放送してエミー賞をさらった「グレイ・ガーデンズ (Grey Gardens)」の、そもそものオリジナル・ドキュメンタリーを撮ったメイズルス兄弟の片割れのアルバートのことか。スポーツ・ドキュメンタリー、しかもボクシングをテーマにしたドキュメンタリーも撮るのか。しかもよく調べてみると、メイズルスは1980年に同タイトルのドキュメンタリーを既にものにしていて、今回はその時のフッテージに新しいものを足してまとめたものらしい。これまたまったく意外としか言いようがない。「グレイ・ガーデンズ」とクリストとローリング・ストーンズのドキュメンタリー映像作家が、ボクシング・ドキュメンタリーをものにしていただなんて。
これら以外にも、アイス・キューブやジョン・シングルトン、スパイク・ジョーンズ、ロン・シェルトンやフランク・マーシャルなんてよく知られている名前が並ぶ。モーガン・フリーマンが南アフリカのラグビーのワールド・カップを回顧する「ワン・シンプル・ジェスチャー (One Simple Gesture)」に関係しているのは、当然公開直前のクリント・イーストウッド監督の「インビクタス (Invictus)」繋がりだろう。等々、なかなかよく見ると面白そうな話が揃っている。
ただし、ESPNとしては特にテーマを決めて製作を依頼するのではなく、それぞれの映像作家にテーマは一任したようで、結果として面白いテーマが並んでいるとは言えるが、一貫性はなく、ほとんど知らなかったマイナーな話もあれば、なぜこれが入ってないのという大きなイヴェントが見過ごされていたりするのにも気づく。
例えば、この30年でアメリカのスポーツ界で起こった最も重要な事件といえば、私が真っ先に思いつくのはタイガー・ウッズの全米アマチュア3連覇か、黒人として初のマスターズ (あるいはメイジャー) 制覇だ。特に全米アマチュアを3連覇した時の決勝は、当時まったくゴルフを知らなかった私がゴルフにのめりこむきっかけになった、まさに一大イヴェントと呼ぶに相応しい事件で、午前の18ホールを終わって6ダウンだったウッズが、午後の18ホールでイーヴンに戻し、サドン・デスでうっちゃって勝つという、スポーツ・イラストレイテッド誌が「神がかり」と形容した前代未聞の勝負で、私はTVで見ていて背筋に電流が走った。あのような経験は後にも先にもこの時だけだ。以来私はウッズの追っかけだ。
私がウッズ・ファンでウッズびいきであることを差し引いても、これを無視するわけにはいくまい。ウッズの影響力が既にスポーツ界という枠を超えていることは、世界中が注目している今のスキャンダルを見てもわかる。なのに番組ではウッズどころか、一人としてゴルフに言及している者すらいない。
4大スポーツでも、NBAスーパースターのマイケル・ジョーダンのNBA時代の話ではなく、MLBに挑戦して芽が出なかった時の話をわざわざ選んでいる。そのジョーダンに負け続けたインディアナ・ペイサーズのレジー・ミラーがとり上げられているのにだ。また、視点をアメリカだけでなく世界にも広げた場合、間違いなくランス・アームストロングのツール・ド・フランス7連覇というのは、誰が選んでもリストの上位に来ることは間違いない。一方、サッカーのワールド・カップすらほとんど見ないアメリカの人間が、ラグビーのワールド・カップを見ているわけがない。ラグビーというスポーツすら知っているか怪しいもんだ。オリンピックならマイケル・フェルプスの北京五輪の金8個に誰かが言及してもよかったのに。
とまあ、漏れ落ちている種々の決定的瞬間がいくつも頭に浮かぶが、だからといってこういう話は誰もを納得させることのできる客観的なリストを作ることなぞ最初からほぼ不可能だ。ESPNもこのことは重々承知しているからこそ、テーマは作り手に一任したんだろう。少なくとも嫌々ながら押し付けられたテーマで番組を製作するより、自分が最も興味を持ち、作りたいテーマを選ぶ方が、興味深いものができそうだ。
下記は30人の映像関係者が製作した「30フォー30」のリスト。だいたい毎週1本ずつ新しいエピソードが放送され、来年まで続く。まだ30本のエピソード全部が発表されているわけではない。
「番組タイトル」、監督、(テーマ人物、スポーツ・ジャンル)
「キングス・ランサム (Kings Ransom)」ピーター・バーグ (ウエイン・グレツキー、NHL)
「ザ・バンド・ザット・ウドゥント・ダイ (The Band That Wouldn't Die)」バリー・レヴィンソン (NFLコルツ)
「スモール・ポテトズ: フー・キルド・ザ・USFL? (Small Potatoes: Who Killed the USFL?)」マイク・トリン (USFL)
「モハメッド・アンド・ラリー (Muhammad and Larry)」アルバート・メイズルス (モハメッド・アリ、ラリー・ホームズ、ボクシング)
「ウィズアウト・バイアス (Without Bias)」カーク・フレイザー (レン・バイアス、NBA)
「ザ・レジェンド・オブ・ジミー・ザ・グリーク (The Legend of Jimmy The Greek)」フリッツ・ミッチェル (ジミー・スナイダー、NFLアナウンサー)
「ザ・U (The U)」ビリー・コービン (大学フットボール)
「ウィニング・タイム: レジー・ミラー vs ザ・ニューヨーク・ニックス (Winning Time: Reggie Miller vs. The New York Knicks)」ダン・クロレス (レジー・ミラー、NBA)
「グールー・オブ・ゴー (Guru of Go)」ビル・コーチュリー (ポール・ウエストヘッド、NBA)
「ノー・クロスオーヴァー: ザ・トライアル・オブ・アレン・アイヴァーソン (No Crossover: The Trial of Allen Iverson)」スティーヴ・ジェイムズ (アレン・アイヴァーソン、バスケットボール)
「イントゥ・ザ・ウインド (Into the Wind)」スティーヴ・ナッシュ (テリー・フォックス、身障者スポーツ)
「ジョーダン・ライズ・ザ・バス (Jordan Rides the Bus)」ロン・シェルトン (マイケル・ジョーダン、MLB)
「カリスマティック・(Charismatic)」スティーヴン・マイケルズ、ジョエル・サーナウ、ジョナサン・コック (競馬)
「ワン・シンプル・ジェスチャー (One Simple Gesture)」クリフ・ベストール、モーガン・フリーマン、ロリ・マクリーリー (南アフリカ、ラグビー)
「ザ・トゥー・エスコバース (The Two Escobars)」ジェフ・ジンボリスト (アンドレス・エスコバー、パブロ・エスコバー、サッカー)
「1994年6月17日 (June 17, 1994)」ブレット・モーガン (O. J. シンプソン、NFL)
「バース・オブ・ビッグ・ジェフ・トレメイン (Birth of Big Air Jeff Tremaine)」ジョニー・ノックスヴィル、スパイク・ジョーンズ (マット・ホフマン、BMX)
「シリー・リトル・ゲーム (Silly Little Game)」アダム・カーランド、ルーカス・ジャンセン (ファンタジー・スポーツ)
「スティーヴ・バートマン: キャッチング・ヘル (Steve Bartman: Catching Hell)」アレックス・ギブニー (MLB)
「アンマッチト (Unmatched)」リサ・ラックス、ナンシー・スターン、ハナ・ストーム (クリス・エヴァート、マルティナ・ナヴラチロワ、女子テニス)
「ワン・ナイト・イン・ヴェガス (One Night in Vegas)」レジー・ロック・バイスウッド (マイク・タイソン、ボクシング)
「マリオン・ジョーンズ: プレス・ポーズ (Marion Jones: Press Pause)」ジョン・シングルトン (マリオン・ジョーンズ、陸上)
「ストレート・アウタL.A. (Straight Outta L.A.)」アイス・キューブ (NFLレイダーズ)
「ザ・ハウス・ザット・ジョージ・ビルト (The House that George Built)」バーバラ・コップル (ジョージ・スタインブレナー、MLB)
「ライト・トゥ・プレイ (Right To Play)」フランク・マーシャル (ヨハン・オラフ・コス、スピード・スケート)
「ザ・ベスト・ザット・ネヴァー・ワズ・(The Best That Never Was)」ジョナサン・ホック (マーカス・デュプリー、大学フットボール)