1960年代香港。チャウ (トニー・レオン) はホテル住まいをしながら新聞に記事を寄稿して生計を立て、そして女性遍歴を重ねていた。チャウは、自分の部屋のそばの2046号室に住む女性ベイ・リン (チャン・ツィイー) と関係を持つようになり、ホテルの経営者の娘 (フェイ・ウォン) と日本人の男 (木村拓哉) との禁じられた恋を見て、自分を男に見立てて小説を書くようになる。2046年を舞台にするするそのSF小説では、何ものも永遠に変わることがない2046という場所があり、そこへ行った者で帰ってきた者は一人もいないと言われていた‥‥


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かなり誉められている「ハッスル&フロウ (Hustle & Flow)」(またテレンス・ハワードが出ている!) を見たいと思っていたんだが、基本的に黒人映画のこの作品、私の住むクイーンズでは、黒人人口密度の高いジャマイカでしかやっていない。とはいえ、こないだ、やはり黒人映画の「ライズ」をジャマイカまで見に行ってちょっと不愉快な経験をしたので、またジャマイカまで足を運ぶ気がしない。黒人映画でも質がよければ見たいと考えているアジア人だっているんだから、場所柄にこだわらないで公開してくれないだろうか。


というわけで、実はあまり恋愛絡みの作品に惹かれなくなっているため近年とんとご無沙汰していた、久しぶりのウォン・カーウァイ作品である「2046」を見に行く。カーウァイ作品は恋愛が主体とはいえ他にも見るべきところは多いとわかってはいても、それでも「恋する惑星 (Chungking Express)」以来見るのは久しぶりで、「ブエノスアイレス (Happy Together)」も「花様年華 (In the Mood for Love)」も見逃していた。しかし「2046」は、過去と未来が絡んだSFタッチの作品だそうで、それなら見れるか。


というか、実はそういった内容よりも、キムタクが出るというので、内容はともかく私よりうちの女房が既に乗り気になっていたのだった。特にSMAPが好きというわけでもないくせに、変なところでミーハー根性を出す奴だな。とはいえ、私もそれなりに気にならないこともなく、ここは女房の尻車に乗るような形で劇場に足を運ぶ。


とはいえ、興味はあったとはいっても、私は本気でキムタクが見たかったわけではない。人気のあるタレントとはいっても、はっきり言って歌は及第点はあげられないし、演技だって「ロングバケーション」で私が知っている限りでは、ぼそぼそと喋る顔の可愛いにーちゃんくらいの印象しか持てず、ま、性格はよさそうだし、料理だってできるみたいだし、女の子に人気のあるのはわかるな、といった程度だった。


ところが、「2046」では、キムタクは結構いい。別にTVに出ている時と喋り方が特に違うとか、いきなり演技力が出てきたとかそういうもんではないのだが、キムタクの持ち味みたいのが積極的に長所として前面に出てきて、これがTVに較べて時間がかけられる強みとでもいうか、かなり感じが出ていて悪くない。やはり日本のTVは時間がなさ過ぎるんだな、時間をかけられないから、ああいういかにも急いで作りましたという感じになるんだな、日本のTVも、フィルムで撮るとか、あるいは一週間で60分番組を毎週毎週撮るなんて無理だろうから、再放送をしてもいいからもうちょっと時間をかけて撮ってもらいたいと思ってしまった。日本の視聴者は、ひいきの俳優さえ出ているならば内容に関係なく見るみたいだから、だったらできのいい番組が再放送されても文句は言うまいと考えるのは誤りだろうか。実際の話、まともに撮っていたら60分番組を毎週毎週新エピソードを放送するなんて、どだい無理な話なのだ。


とまあ、いきなりキムタクのナレーションで始まるから、いや、キムタク、悪くないじゃないという感じで見始め、キムタク絡みで日本の放送事情に考えが飛んだりしたのだが、やはり「2046」はレオンと、さらには女優陣の映画である。私にとっては、レオンではなく、完全に女優の映画である。というのも、私は実はレオンにかなりよく似た人間を知っているのだが、当然レオン同様男好きのする顔で、隠れゲイかあるいはバイに違いないと皆に言われている。周りの者は、いつ彼がカミング・アウトするかと、よるとさわるとそればっかり話題にするのだが、レオンを見ていると、その彼を思い出してしょうがないのだ。そうするとレオンもゲイにしか見えなく、どうしても女たらしのプレイボーイだとは思えない。むろんこれはレオンのせいじゃないんだろうが、いや、もしかしてレオンもゲイじゃないのか? だからこそそれをごまかすために女をとっかえひっかえしているとか、なんてよけいなことが気にかかる。


一方、貫禄のコン・リーや進境著しいチャン・ツィイー、キュートなフェイ・ウォンなどは、よいねえ。まあ、誰が見ても美人というとツィイーなんだろうが、ウォンなんて結構好みだなあ、ほとんど中国映画界では伝説的存在と言われているマギー・チャンより印象的。ま、こういうのって個人の嗜好の問題だから私とまったく逆の意見を持つ者も多いかと思うが、それでも、この作品ではレオンとキムタクという二人の男性主人公より、女性陣の方が見栄えがすると言ってしまっていいんではないか。


ところでタイトルの「2046」とは、レオンが最初入ろうとして、結果として別の女性たちが滞在することになるホテルの部屋の番号であり、彼が書く未来小説における理想郷の場所の名前でもある。映画を見た後、バス・ルームに行っている女房をロビーで待ちながら、ボードに貼られてあった解説を読むと、さらにこれは、香港が中国に返還されてから半世紀後の年号のことでもあり、その半世紀で変わるもの、変わらないものをとらえてみたかったというカーウァイの談話が載っていた。ついでにもっと調べてみると、「2046」の60年代香港の方の設定は、ほとんど役者まで「花様年華」にかなり近いらしい。むーん、やっぱ「花様年華」を見ているのと見てないのとでは、「2046」の受け止め方が異なってくるようだ。


「2046」はホテルが舞台で複数の主要な女性が登場することもあり、いわゆるグランド・ホテル方式と呼ばれる群像劇の気配がなきにしもあらずである。というわけでもないだろうが、「2046」は私にヴィム・ヴェンダースの「ミリオン・ダラー・ホテル」を想起させる。特にホテルの屋上のシーンは、色の使い方といいその雰囲気といい、かなり「ミリオン・ダラー・ホテル」を彷彿とさせ、思わぬ類似点に驚かされもする。どちらかと言うと「ミリオン・ダラー・ホテル」よりは「2046」の方がエンタテインニングかなと思ったのだが、実は、うちの女房はこの映画、かなり退屈したと後で言っていた。たぶんキムタクが出るということでヘンに期待していたからだろうと思うが、私は逆に、あまり思い込みなしで見たために、思ったよりエンタテインニングと感じ、かなり楽しんだ。「花様年華」も見ておけばよかったと後悔したくらいだ。でも次はやはり現代ものを見てみたいな。






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