放送局: NBC

プレミア放送日: 「ウィル&グレイス」9/25/2003 (Thu) 20:45-21:30と、「カップリング (Coupling)」21:30-22:00内にて放送

脚本/監督: スティーヴン・アンティン

出演: カーメン・エレクトラ


内容: コマーシャル中に放送される正味1分間のTV映画。第1回は「ザ・プッシーキャット・ドールズ (The Pussycat Dolls)」。


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近年、アメリカのネットワークTVの視聴率は低下の一途を辿っている。その最大の理由を、ケーブルTVが躍進してチャンネル数が増大したために、競争が激化したことに負っているのは間違いないところだ。その上、ヴィデオ・ゲームやインターネット等、TV視聴以外の様々な新しいエンタテインメントやアクティヴィティが人気を得ているから、TVを見なくなる者が増えるのはどうしようもあるまい。


さらに、近年、ネットワークにとって新しい脅威が出現した。PVR (Personal Video Recorder)、あるいはDVR (Digital Video Recorder) と呼ばれる、多機能型TV視聴システムがそれだ。ハード・ディスクに番組をデジタル録画しながらTVを視聴でき、そのため、番組視聴中のポーズや早送り、巻き戻しが可能で、その結果、コマーシャルをスキップしながらの番組視聴が可能になるという、番組スポンサーにとってはおそるべきシステムだ。


このシステム、アメリカではティーヴォ (TiVo) というフィリップス系のブランドがほとんど一人で市場を牛耳っている。そのため、「PVR/DVR」ではなく、「ティーヴォ」というブランド名が、そのままこの種のシステムを意味する名詞としてほとんど定着している。アメリカではこういう形でブランド名が商品そのものを表す名詞として定着してしまう例が多く、ティッシュ・ペーパーと言わずにクリネックスと言うし、セロファン・テープと言わずにスコッチ・テープと言う。それと同じだ。こないだ「レイト・ショウ」を見ていたら、ホストのデイヴィッド・レターマンが、昨日TVを見ていたら面白いシーンがあったので慌ててティーヴォしたんだけれども (I tivoed) ‥‥なんて、ティーヴォを動詞として使っていた。


さて、無論、番組スポンサーにとって脅威なことは、ネットワークにとっても脅威である。なんとなればTV番組というのは番組スポンサーの出す金で製作されているのであり、そのスポンサーのコマーシャルを見てくれないのでは、金を出す意味がない。つまり、最終的にスポンサーが番組から降りてしまうことが懸念される。もちろん、それこそがネットワークが最も避けたいことに他ならない。その結果、番組視聴者がコマーシャル・タイムにチャンネルを切り換えたりするのを避けるために、あの手この手の方法が模索されている。


一方、これがアメリカで年間で最も高い視聴率を稼ぐ番組である、プロのアメリカン・フットボール・リーグ、NFLの優勝決定戦「スーパーボウル」中継だったりすると、話はまた違ってくる。番組スポンサーがここを先途とばかりに今度は力を入れて製作したコマーシャルを初お目見えさせるために、時によってはゲームそのものよりも、コマーシャルの方が話題になることも往々にしてあるのだ。翌日の新聞には、どのコマーシャルが一番面白かったかなんて投票結果が載っていたりする。実際、私なんかはほとんどNFLに興味がないので、どちらかというとこのコマーシャル、それにビッグ・ネイム・アーティストによるハーフ・タイム・ショウの方が気がかりだったりする。


とはいえ、やはり商品の中味よりも包み紙の方が気になるという例外は、多分にこの「スーパーボウル」だけだろう。その他のほとんどの場合、視聴者はどうにかして物語の進行を妨げるコマーシャルを見ないで済む方法はないかと考えていたり、あるいは、コマーシャルになった途端、お手洗いに立ったりしているのだ。その上ティーヴォが市民権を得たりしたらと思うと、ネットワーク幹部が戦々恐々としているのもわからないではない。せっかく視聴率を稼ぐ番組を放送しても、コマーシャルを人が見てくれなければ話にならないのだ。


この不安に対して、時に思い切った対策として試みられるのが、いっそコマーシャルをなくしてしまうという方法である。ごく稀にではあるが、本編内のコマーシャルを一切カットし、番組が始まる前と後に長めのコマーシャルを置くことでよしとする場合もある。今シーズンではFOXの「24」のシーズン・プレミアが、カー・メイカーのフォードの協賛を得てノー・カット放送された。フォードは、本編の始まる前に3分半、終わった後に2分半の、ほとんどコマーシャルというよりは短編映画的なコマーシャルを挿入している。


フォードは「24」に、番組内で使用されるトラックも提供しているのだが、「FORD」と大書されたトラックが番組内でここぞとばかりに走り回られると、いくらなんでも興醒めだ。そのため番組内では、実際にフォードのトラックを使用してはいるのだが、フォード・ブランドが表に出ることはない。とはいえ、見る者が見ればフォードのトラックであることは一発でわかる。要するに、狙っているのはそれだ。


一方、これは昨年だかにABCの「エイリアス」が、やはりシーズン・プレミアを携帯ブランドのノキアの提供でコマーシャル・フリー放送した時は、こちらは、物語上、登場人物が番組内で携帯を何度も利用するのだが、そのたんびにわざとらしくNOKIAブランドが画面に映るようにカメラ・アングルを調節していた。確かにこちらは、遠目では携帯なんてどこのブランドのものかを当てるのは難しいから、近くに寄って、これ見よがしに画面に写す必要があったのだろう。


いずれにしてもこれらのコマーシャルは、番組の前と後、計2回分しかないから、当然1本が長い。2分とか3分のコマーシャルを他のところで使えるわけはないから、当然一回限りの放送か、あるいはその一回を放送した後、繋ぎ直して30秒コマーシャルだかに作り変える必要がある。また、コマーシャル・フリー放送の場合、視聴者が見たいのは本編だけであるから、視聴者がその前後のコマーシャルも見るかは大きな賭けだ。それで採算はとれるのだろうかと思うが、少なくとも現段階においては、こういう放送の仕方が、ある種のパブリシティとなることで話題を提供しているとは言える。


こういう、1スポンサーによるコマーシャル・フリー放送とは別の放送の仕方を提示したのが、今回のNBCによる「1MM (1 Minute Movie)」である。この番組、呼んで字の如く、たった1分間のTV映画だ。それをコマーシャルの時間帯で放送するというのがポイントである。つまり、コマーシャル・タイムとなって、続けてコマーシャルがいくつも放送されるその間のいつかに「1MM」を放送することで、視聴者がコマーシャル・タイムにチャンネルを替えたり席を立ったり、あるいはティーヴォすることを阻止しようという新たな試みが、「1MM」なのだ。


「1MM」は、事前に、何曜日のどの時間帯に放送されるかということは発表になっているが、いったい番組のいつ頃 (のコマーシャル中に) 放送されるかは発表されていない。その発表だって、業界向けの発表であり、多分、一般の視聴者は「1MM」という小ムーヴィ自体が放送されることも知らない者の方が多いだろう。しかもこの「1MM」、たった1分間の番組の癖して、30秒ずつの前後篇に別れている。つまり、もし視聴者がたまたま「1MM」の前篇を見て、後篇も見たいと思った場合、いつやるかわからないその後篇を見るために、その後に放送されるすべてのコマーシャルを見ざるを得なくなるという寸法だ。


その「1MM」のプレミア放送は、シーズン・プレミアの「ウィル・アンド・グレイス」のエピソードの、最後のコマーシャル枠でまず前篇が放送され、続く新番組「カップリング (Coupling)」の最初のコマーシャル枠で、後篇が放送された。「W&G」の前に編成されている、現在最も高い視聴率を獲得するシットコムの「フレンズ」内で前篇を放送した方が最も効果的だったような気がするが、この日のNBCの思惑は、それよりも視聴者に新番組の「カップリング」にチャンネルを合わせてもらうことにあったようだ。後篇を「カップリング」内で放送する場合、前篇を「フレンズ」放送中に持ってくると、間が開きすぎることによって、視聴者が忘れてしまったり、あるいは苦情が来ることを危惧したものと思われる。


ついでに言うとこの日の「フレンズ」 (20:00-20:45) と「W&G」(20:45-21:30) は、話題を集めるために、共に45分の「スーパーサイズ化」しての放送だった。それに、「フレンズ」よりも「W&G」よりも「カップリング」よりも「1MM」の方に興味のあった私のような者は、結局「フレンズ」に始まって「カップリング」、ついでにその後の「ER」まで全部見ちまったから、NBCの術中に見事に陥ったと言える。


しかし、その焦点の「1MM」なのだが、実は、これがなかなか苦しい。「ザ・プッシーキャット・ドールズ (The Pussycat Dolls)」と題されたこのミニムーヴィ、「ベイウォッチ」出身のカーメン・エレクトラがメイン・キャラクターで、多分女スパイかなんかに扮した彼女が、大量のダイヤを持って列車に乗り込んでいる男のカバンをすり替えるという内容で、こんな使い古された題材を、しかも仕掛けも何もほとんどできないたった1分間という時間で、いったいどう撮るつもりなんだ。しかもそれを30秒ずつの前後篇に分け、最初の30秒で視聴者の興味を惹きつけるってか?


端的に言って、無理だ、そんなの。結局、でき上がったのは、ストーリーもよくわからなければ言いたいこともよくわからないという、なにやら忙しない2流のミュージック・ヴィデオみたいなものになってしまった。賭けてもいいが、最初の30秒を見て、何、これと不思議に思った者は多かろうが、で、それでもっと続きが見たいと思った者は、ほとんどいないだろう。実際の話、この「1MM」、放送されるまでは、少なくとも業界内ではそれなりに話題になっていたのに、いざ放送された途端、「1MM」について誰も何も言わなくなった。こんなのを話のネタにしてもしょうがないと、きっと誰もが思ったんだろう。


多分NBCも、作ったはいいが、これじゃあと思ったんじゃなかろうか。「1MM」は、今後も定期的に製作される予定で、その製作陣にマイケル・リチャーズ、トム・アーノルド等の名前も上がっていたんだが、「プッシーキャット・ドールズ」以降、話をとんと聞かなくなった。実はNBCだけじゃなく、ABCも、同様の10本の3分間映画「マイクロ・ミニシリーズ」をプライムタイムに放送する企画を立てていた。こういう話は業界内には伝わるのは速いから、10本製作予定のところ、370本の売り込みがあったそうだ。


しかし、「1MM」のあり方を見たABCが、実際に「マイクロ・ミニシリーズ」を製作するかは未知数になってしまったと言っていいだろう。はっきり言って、「マイクロ・ミニシリーズ」が陽の目を見ることはないんじゃないかと思う。30分のシットコムや1時間かけたドラマですら人々が見なくなっているというのに、だから1分や3分の作品ならどうだというのは、本末転倒である。問題をすりかえていると言うか、問題の本質を把握していない。


さらに、30秒や1分ものなら、実際にできのいいコマーシャルがそれを既にやっている。少なくとも「1MM」なんかより、例えばフォルクス・ワーゲンやバドワイザー、最近ではニッサンやトヨタ等の、わりと考えられたコマーシャルの方がずっと面白い。特に最近の日本のカー・メイカーのコマーシャルを見ると、イメージ戦略もうまくなったと思う。今後、ミニムーヴィが市民権を得るようになることは、まずないだろう。



追記: 2003年11月

「プッシーキャット・ドールズ」を見て、もしかしたらもう今後放送されることなく、なし崩しに消えてなくなるんじゃないかと私が思っていた「1MM」であるが、このほど、「1MM」第2弾の「プロディジィ・ブリー (Prodigy Bully)」が12月に放送されることが発表になった。NBCはまだ「1MM」を諦めたわけではないようだ。しかしこの「プロディジィ・ブリー」だが、既に1分では収まらなくなってしまい、2分番組となって30秒ずつ、4日間にわたって放送するという。関係者以外の視聴者が、30秒の番組を4日間にわたって追っかけて見るとNBCは本当に思っているのだろうか。これが本当に最後の「1MM」放送になると私は見ているのだが。







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1MM (One Minute Movie)

ワン・ミニット・ムーヴィ   ★★

 
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